HIV(エイズウイルス)は
どこにいる?
HIVは感染している人の体液の中にふくまれている。どんな体液の中にあるのだろう?
また、腸粘膜から出てくる粘液にも、HIVがふくまれるという報告がある。
腸粘液は、便がスムーズに排泄されるような潤滑剤の役目をするものだ。
さきばしり液は?
さきばしり液の中には精液がまざることがあるから、HIVがふくまれる。
精液ほどではないけど感染が起こる可能性がある。
これ以外の体液は?
唾液・尿・汗・涙などにはほとんどふくまれないので、感染力はない。
HIV(エイズウイルス)の量と
感染の起こりやすさ
感染している人の体内にはHIVがあるけれども、そのウイルスの量はさまざま。
一般的に、ウイルスの量が多ければ感染が起こりやすくて、少ないと感染が起こりにくい。
だから、セックスの相手が仮に「HIVに感染している人」であっても、
その状態はいろいろで、見た目ではわからない。
「HIVに感染している人」の様々な状態と感染の起こりやすさ
- 実はHIVに感染しているが、感染していることに気付いていない人
- ウイルス量が数万〜数十万(コピー/ml)と高いことが多い。
特に感染してまもない1週間〜2週間はウイルス量が数百万もあることもあり、リスキーなセックスをすると非常に感染が起こりやすい。 - HIV検査を受けてHIV陽性とわかったが、まだ治療を受けていない人
- 同じく感染が起こりやすい。
しかし、HIV陽性と本人自身がわかっているため、感染を防ごうという気持ちと工夫があれば予防することは可能。 - HIVの治療を始めたが、まだウイルス量が十分に低くなっていない人
- ウイルス量が数万→数千→数百へと減少していく段階。
感染が起こりやすい状態から感染が起こりにくい状態に変化している途中、どの程度感染が起こりにくいかは正確にはわからない。 - HIVの治療をしっかり継続していて十分にウイルス量が低くなっている人
- ウイルス量が検出限界以下(ゼロではないが、検査では測れないくらい少ない状態)を継続している状態になった場合には、感染が起こる可能性はきわめて少ない。
HIV(エイズウイルス)は
カラダのどこから感染する?
皮膚の傷や粘膜にHIVのふくまれる体液がつくと、
そこからHIVが体の中に入りこむことがある。
そして最終的に血液の中に入ると感染する。
傷や粘膜について考えてみよう。
皮膚と傷
皮膚は「硬い壁」と「やわらかい細胞の層」でおおわれていて、その下に血管がある。
「硬い壁」で守られているので、正常な皮膚にHIVがふくまれる体液がついただけで感染することはない。
- 出血した傷口
- 血管まで裂けているので、そこからHIVが入ると感染する可能性が高い。
- 出血をしていない傷口
- しみる・ヒリヒリするような傷口は、「やわらかい細胞の層」の下まで傷がとどいているので、HIVが入ると感染する可能性がある。
そこまで深くない傷は、リスクは少ないが、できるだけHIVのふくまれる体液がふれないように気をつけよう。
ペニスの皮膚
ペニスの皮膚はちょっと特別。「壁」も「やわらかい細胞の層」も、とても薄く傷つきやすい。
陰茎小帯(ペニスの下側の亀頭から陰茎をつなぐヒダ)や、亀頭のカリのすぐ下や、包茎の包皮(亀頭にかぶさっている皮膚)の内側の「やわらかい細胞の層」にはHIVが取りこまれやすい細胞がたくさんあることがわかってきた。
この部分にHIVがふくまれる体液がついて、こすれたりすると、感染が起こる可能性がある。
粘膜
粘膜は「やわらかい細胞の層」だけで覆われ、「硬い壁」がない。
そのすぐ下には血管があるので皮膚より赤く見える場所。
粘膜は傷つきやすくて出血もしやすい。だからHIVの感染が起こりやすい。
特に、直腸や尿道の粘膜は「やわらかい細胞の層」も薄いので、傷がなくても感染が起こる可能性がある。
他の性病(STD)に
かかっているとHIV(エイズウイルス)に
感染しやすい
性病(STD)とは、セックスによって人から人へとうつる感染症のこと。HIVのほかに10種類以上ある。
HIV以外の主な性病(STD)
- 梅毒
- クラミジア
- 淋病
- アメーバ赤痢
- ヘルペス
- A型肝炎
- B型肝炎
- C型肝炎
- 尖圭コンジローマ
- ケジラミ症
- 疥癬(かいせん)
HIVとその他の性病の関係
HIVとその他の性病との関係はとても深い。
性病に感染していると、粘膜に炎症を起こしたり、性器などに潰瘍(かいよう)ができて、そこからHIVが体内に侵入しやすくなる。
例えば、梅毒の初期にできることが多いペニスの潰瘍、尖圭コンジローマで亀頭や肛門にできる突起など。最近では、直腸内で炎症を起こすクラミジアや淋病が、HIV感染の可能性を非常に高めるということが報告されている。
いろいろな性病を気付けることは、HIVの感染を予防するうえでも、とても大事だ。
HIVとは異なる予防の仕方
気をつけたいのは、HIVとその他の性病とは感染が起きるメカニズムがちがうものがある、という点。
例えばHIVはキスでは感染を起こすことはないが、梅毒やヘルペス等はキスでも感染を起こすことがある。
それぞれの性病の最低限の病気の特徴と予防の方法を知っておくことが役に立つ。
また、A型肝炎やB型肝炎であれば、前もって予防のためのワクチンを受けるという方法もある。
性病について知っておいたほうがいいポイント
- 感染しても症状が出ない場合があり、自分でも気づかないことが少なくない。
セックスを通じて知らないうちに、他の人が感染してしまうことがある。だから、検査を受けることが大事。 - 性病は、治療で簡単に治るもの、根気づよく治療をつづける必要のあるもの、一生つきあうことになるものなどいろいろ。
自然に治ってしまうものはとても少ない。 - 性病は、一度治療をして治っても、何度もかかるものが多い。
パートナーも一緒に治療しないと、感染したりされたりという「性病のキャッチボール」が起きやすい。 - 同時に複数の性病にかかることもあるため、あなどることができない。
- 何らかの性病にかかったら、HIVにも感染している可能性があるので、HIV検査も合わせて受けるようにしよう。
粘膜についてのまとめ
直腸の粘膜
粘膜がとても薄くて、すぐ下に血管があるので感染しやすい。しかもちょっとした摩擦で傷つきやすく、傷があったり潰瘍(かいよう)や炎症、痔がおきているとさらに感染しやすくなる。
特に梅毒やクラミジア、淋病などの性病があった場合には、HIV(エイズウイルス)の感染が起きやすい。ただし、傷や潰瘍があっても痛みがなく、気づかないことも多い。
口や鼻やまぶたの粘膜
直腸粘膜に比べて粘膜が厚く、体液がついても洗い流しやすいので感染しにくくすることができる。でもそれは、例えば「フェラチオは大丈夫」とか「顔射は大丈夫」いうことではない。
あくまでも感染がおきにくくする工夫をしやすいだけのこと。目をこすったり歯ブラシを使うことで細かい傷ができていたり、口内炎や歯周病などの炎症がおきていれば感染しやすくなる。
フェラだけしかしないのに感染したケースもあるので、あなどることなかれ。
尿道の粘膜
尿道の内側に入ればすぐに粘膜が薄くなっているので、感染しやすい。尿道炎や性病にかかっていれば、さらに感染しやすい。だから「タチは大丈夫!」ではないんだ。傷つきやすい直腸の粘膜からのわずかな出血や、腸粘膜から出てくる粘液など、HIVのふくまれる体液が尿道の中に入ってくれば、十分に感染する可能性がある。
ちなみに、相手の肛門に別の人の精液が残っていたり…なんていうシチュエーションも要注意。
こんなときにHIV(エイズウイルス)の
感染が起きやすい
下のような条件が加わると、感染が起きやすくなる。
逆にこのような条件にならないように工夫すると、リスクを下げることができるよ。
- 粘膜や傷口にHIVのふくまれる体液が長い時間ついていること
- できるだけ早くふき取ったり、たくさんの水で洗い流そう。
- 粘膜がこすれたり、傷ついたりすること
- 水溶性のローションなどを使用して摩擦を起きにくくしたり、傷つかないようにしよう。
- 粘膜に性病による潰瘍(かいよう)や痔があったり、
炎症(扁桃腺が腫れているときや口内炎など)が起きていること - 潰瘍や痔、炎症の部分にはHIVのふくまれる体液がふれないようにしよう。
HIV(エイズウイルス)感染の
リスクを下げる工夫
HIVの感染を起こさないためには、HIVがふくまれる可能性のある体液(精液、血液、さきばしり液、腸粘膜から出てくる粘液、膣分泌液、母乳)が、粘膜や、皮膚の傷・炎症・潰瘍(かいよう)があるところにつかないようにする必要がある。
そのためには、セックスの前には自分の身体をチェックしよう。
- 傷があったらばんそうこうでしっかりふさごう。
- 傷、炎症、潰瘍がある部分はセックスでは使わないようにしよう。
例えば、口に口内炎があったらフェラチオをやめておくとか、亀頭に潰瘍があったら触らないようにする。 - コンドームを使おう。
アナルセックスはもちろん、フェラチオのときもコンドームを使うほうが確実だ。
そして、自分の健康状態を意識することを習慣にしてみよう。
HIVと性病(STD)の検査は、これまでに検査を受けたことがある人でも年に1〜2回の定期的な検査がおすすめです。
コンドームとローションを
上手に使おう
コンドームは厚さの薄いものや無臭、味付きなど
いろいろあるから試してみよう
コンドームは使用期限を確認しよう。
古いものだと、セックスの途中で破れてしまう心配があるよ。
それからコンドームの裏表を間違えないようにペニスに着け、空気が入らないように皮を下にのばしながらペニスの根本まで下ろし、たるんだ皮を上に引き上げてさらに根本まで下ろしてかぶせよう。暗いところでも素早く着けられるように練習しておくといいよ。
終わったら、根本を押さえて中ではずれないように引き出そう。
コンドームの装着方法
射精後は
コンドームの正しい使い方
- 使用期限があるので必ず守る
- 装着するときに爪を立てない
- 先っぽに空気が入らないようにする
- ペニスの皮を下までのばしてコンドームを下までかぶせ、
次にたるんだ皮を上にのばしてから根本までしっかりと着ける - 二枚重ねにしない
ローションを使って、粘膜に摩擦などで傷をつけないようにする
アナル(肛門)を慣らさずに無理にペニスや指、道具を入れたり、強い力で刺激をしないようにしよう。
ローションを使うと感度が良くなるのに加えて摩擦が少なくなるので、粘膜は傷つきにくくなるし、コンドームも破けにくくなる。また、ローションは粘膜を保護するとも言われている。
コンドームを使われるとアナルが痛いっていう場合は、ローションをたっぷり使ってみよう。いまはアナル用のローションなど、種類もいろいろ開発されている。皮膚や粘膜が弱い人は、弱酸性のものを探してみよう。
ただし、ローションは「水溶性」のものを使おう。
マヨネーズやサラダオイル、ハンドクリームやシャンプーなど油が入っているものを代わりに使ってしまうと、コンドームが破れてしまうよ。
使わない方がいい物リスト
リスキーなことがあったとき
どうすればいいか
どんなに気をつけていても、「絶対に大丈夫」じゃない時があるかもしれない。
「よく見たら手に傷があった」「コンドームが破けた」「途中でコンドームがはずれていた」など、いろいろなトラブルがあるかもしれない。
それに、ふとした気持ちの変化や、ノリでリスキーになってしまうことだってあるかも。
そんなときにはどうしたらいいだろう?
- 粘膜や傷などにHIV(エイズウイルス)がふくまれる可能性がある体液が接触している時間をできるだけ短くする
- 粘膜や傷などに体液がついたら、できるだけ早く、やさしくふき取るか、こすらずにたくさんの水で洗い流したり、ゆすいだりしよう。
しかし、腸の洗浄(浣腸)は腸の粘膜を傷つける可能性があるので禁物だ。中出しされた場合は、便をするように自然に出すだけにしよう。これでリスクがどれくらい軽くなるかは、はっきりとはわからないが、できることをしてみよう。 - 一人で考え込まず、相談をしてみよう
- パニックになっているときに、直面している問題をすべて一人で解決する必要はないよ。相談員と話すことで、ひとつひとつ整理することができるかもしれない。
何を話していいのかわからないときでも、電話相談は利用できる。電話相談は匿名で、地域を問わずどこからでも相談ができるよ。 - HIV検査を受けてみよう
- HIVに感染しているかどうかを知るためには、血液検査を受けることが必要。怖いけれど、仮に感染しているとしたら、早めに知ることは治療にとてもメリットがあることだ。
正確な検査の結果を得るために、感染の可能性のあるセックスから検査を受けるまでの期間を注意する必要がある。
わからないときには電話相談で聞いてみよう。 - HIVに感染したかもしれない場合の緊急投薬(PEP)
- 体内にHIVが入ってしまってから、感染が成立するまでにわずかな時間差がある。そのため、至急(72時間以内)、決められた抗HIV薬を飲み始め、それを4週間つづけることによって、感染のリスクを下げられることがわかっている。海外では制度化されている国もある。現在、日本では主に医療事故による場合が対象となっており、セックスの場合に対してはごく一部の施設のみで対応している。
HIV+でも、
セーファーにセックスができる
HIV(エイズウイルス)は体液と、粘膜や傷などが触れるときに感染する可能性がある病気。
でも、HIV+の人もいくつかポイントを押さえておくと、安心してセックスをすることができる。
セックスでHIVが感染する可能性のある行為は、比較的リスクの高いものから、ほとんどゼロに近いものまである。
また、それぞれの行為を「する/される」によっても、射精の有無によってもリスクが異なる。さらに、粘膜の状態、他の性病にかかっているかどうか、HIV+の人が持っているウイルスの量などによって差がある。
だから、以下の3つのポイントをおさえておこう!
- HIV陽性とわかったら、なるべく早めに治療を始めてウイルス量を減らす
- 抗HIV薬による治療を行っていて、HIVのウイルス量が検出限界以下に抑え続けられている場合には、非常に感染が起こりにくい状態になる。
HIVの治療はセックスをより安心にするためにも役立っている。 - 性病(STD)やHIVの再感染に気を付ける
- 免疫力が低いHIV+の人が梅毒などの性病にかかった場合、治りにくかったり、症状が重くなったりすることがある。
HIVについても、タイプの異なるHIVや、薬が効きにくくなっているHIVに再感染するといったリスクがある。だから、HIV+同士でセックスするときも、セーファーをこころがけよう。 - やっぱりコンドームは重要アイテム
- セーファーセックスは、HIV+の人がHIVを感染させないためのものだけでなく、性病などを予防して自分の健康を守るためのものでもある。
上手にコンドームを使うことがやっぱり大事。